先月のレポートでもお伝えしたとおり、5月25日より「事業性融資推進法」が施行され、「企業価値担保権」が始まりました。
前回のレポートでは、「企業価値担保権とは何か」「これまでの不動産担保や経営者保証中心の融資と何が違うのか」という制度概要を中心にお伝えしました。
5月22日の会見で、片山金融相は企業価値担保権の活用見込みについて、会見時点で20の金融機関から延べ26件の取り組みを実施予定との報告を受けていると述べていました通り、各金融機関より実行事例が出てきています。
今回は、制度が実際にスタートしてから、どのような動きが出ているか、公表されている事例を基にポイントを整理します。
1.福井銀行と商工中金による事例
制度開始日の5月25日、福井銀行は、ケイテー株式会社に対して、商工中金と協調し、企業価値担保権を活用した融資を実行したと公表しました。
■ケイテー株式会社(福井県勝山市)の概要
1910年創業|資本金:3,000万円|事業内容:アパレル、生活資材、自動車内装向けの合繊織物の製造業。
福井銀行は、業歴110年を超える歴史ある会社で、「一貫生産体制」と「独自の織繊技術」を強みとしていると説明してます。
企業価値担保権の実行先のイメージとしてスタートアップ企業をイメージする方もいますが、今回のように創業100年を超える老舗製造業という点は一つの注目ポイントです。
つまり、企業価値担保権は、単に「新しいビジネスモデルの会社」だけではなく、長年の事業活動の中で培ってきた技術、ノウハウ、生産体制、取引基盤などを持つ中小企業にも活用されることが示されました。
【融資実行の概要】
■資金使途及び目的:経常的に必要な運転資金等に充当。資金調達構造の適正化を図るとともに、将来の成長投資に向けた経営基盤の更なる強化を目指す。
■融資額:
商工中金:1億3,500万円+2億円の融資枠を開設
福井銀行:非公表
この他にも、政府系金融機関との協調での対応例として、第四北越銀行と日本政策金融公庫(中小企業事業)による建材販売・施工、精密プラスチック部品製造、ITソリューション、金属・木材加工を営む株式会社丸互への実行があり、政府系金融機関との協調融資も一つの典型例になるのかもしれません。 当該企業は、1953年に製材所として創立し、地域の複合企業として歩んできた会社です。この事例も資金使途は運転資金です。
2. 筑邦銀行による再生型M&A資金
筑邦銀行は、再生型M&Aの支援資金として企業価値担保権を活用した融資を実行しました。
融資及び担保設定の対象企業は、福岡市で教育・福祉事業を展開する上場企業の創業家の資産管理会社。
事業から得る売上はなく、株式を除いて資産を持たない会社。
この事例の注目点は、融資先は資産管理会社であり、事業収入も資産もなく、さらに、買収対象会社である介護関連会社は債務超過であったという点です。それでも、筑邦銀行は介護関連会社からの将来のC/Fに着目して融資を実行しました。
筑邦銀行は以前からABL(動産・債権担保融資)に力を入れていたようで、この経験が今回の企業価値担保権の活用にもつながったようです。
【融資実行の概要】
■資金使途:介護関連企業の買収資金
■融資額:約3億円
■返済期間:3年
筑邦銀は事業計画や返済方法などを一緒に考え、介護関連事業の成長を伴走的に支援していく。
3.その他の事例
■清水銀行
産業廃棄物の木くずを、木材チップや製紙原料に再生するリサイクル事業の小泉チップ工業株式会社(静岡市)に1,000万円実行。
小泉チップ工業の事業拡大の余地に着目して企業の成長性、将来キャッシュフローを評価。
■東邦銀行
クラフトジン蒸留所「naturadistill川内村蒸溜所」を運営する、Kokage株式会社(福島県)に対して企業価値担保権を活用して融資実行。(融資額、返済期間は非公表)
当該企業と東邦銀行が一緒に5年計画を策定。月間1,000本の生産を3,000本に増やす計画を立て、販路別の売れ行きやジンの在庫をKPIとして管理する方針。
■武蔵野銀行:建築資材卸売りの会社へ設定。
■埼玉りそな銀行:塗装業界に特化したクラウドサービスを提供する会社へ設定。
■西京銀行:先進的な農業を展開するスタートアップ■北洋銀行:旅館を手掛ける会社へ設定。融資額は非公表
以上、公表されている事例を基にまとめました。企業価値担保権の活用は今後さらに広まっていくことでしょう。
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