今年8月、金融庁は「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を改正し、地域金融機関に対する「早期警戒制度」を見直しました。これは、銀行が業績の悪い企業を早期にチェックする制度というものではなく、金融庁が銀行や信用金庫などの金融機関に対し、経営が大きく悪化する前の段階から収益性や健全性を確認し、必要に応じて早めの経営改善を促す制度です。
つまり、「金融機関➡︎中小企業」ではなく、「金融庁➡︎金融機関」という関係であり、今回の見直しは、中小企業に直接新しい審査基準を課すものではありません。
ただし、金融機関自身の経営がこれまで以上に金融庁から厳しくチェックされることになるため、今後の融資姿勢や銀行取引にも影響してくる可能性があります。
今回は、そうした視点からお伝えしてまいります。
1. なぜ、早期警戒制度が見直されたのか
背景にあるのは、地域金融機関を取り巻く経営環境の大きな変化です。金融庁は今回の見直しにあたり、
・人口減少
・地域経済の縮小
・預金量の変化
・金利上昇
・有価証券の評価損
・将来的な収益力
などを重要な環境変化として挙げています。
これまでの制度では、足元の収益状況を基に数年先を予測するような分析が中心でした。しかし今後は、人口動態や金利変動などについて合理的なシナリオを設定し、その環境下でも金融機関が十分な収益性や健全性を維持できるのかを、より深く検証していく方向です。例えば、人口動態については5年後、10年後まで見据え、預金や貸出、収益などへの影響を確認していく考えを金融庁は示しています。
つまり、「今の経営状態に問題がないから大丈夫」ではなく、「5年後、10年後も地域金融機関として持続できるのか」を見るようになってきたということです。改正後の監督指針は2026年8月3日から適用されています。
2. 中小企業にはどう影響するか
この制度は、直接、中小企業の融資審査を変更するものではありません。しかし、金融機関自身が将来の収益性や健全性をより強く意識するようになれば、貸出方針にも影響が出てくることは十分考えられます。金融庁の監督指針では、金融機関に対して、信用リスク、市場リスク、流動性リスクなどを把握し、継続的に経営改善に取り組むことを求めています。
そのため銀行側も、
「どの地域に貸すのか」
「どの業種への貸出を増やすのか」
「特定業種に融資が偏っていないか」
「どの企業と長期的に取引していくのか」
といったことを、これまで以上に考える必要があります。
すると、同じ財務内容の会社でも、A銀行は積極的なのにB銀行は消極的、というケースが発生することでしょう。これは、その金融機関自身の経営状況や地域戦略、貸出ポートフォリオなどが影響して、発生することが考えられます。例えば、B銀行の貸し出しポートフォリオが建設業に偏っているため、建設業に対して融資を抑えるという姿勢に変わった結果、今までよりも融資判断が厳しくなった。というようなケースがあり得るわけです。
3. お客様に伝えたい3つのこと
こうした環境変化を踏まえると、我々、財務コンサルタントとして顧問先をはじめとする、クライアント企業の皆様に、伝えておきたいポイントは3つあります。
① 将来の経営を説明できるようにする
今後3~5年の売上、利益、資金繰り、設備投資などを説明できる経営計画を作っておくことが重要。
② 月次試算表と資金繰り表を整備する
業績が悪化してから銀行へ相談するのではなく、毎月の数字を確認し、問題の兆候を早期に把握できる体制を作る。
③ 一つの金融機関に依存しすぎない
金融機関自身の経営方針や融資戦略が変わる可能性を考えれば、会社の規模に応じてメイン行、サブ行、政府系金融機関などとの関係をバランスよく構築しておく。
今回お伝えした「早期警戒制度の見直し」は、一見すると金融機関だけの話に見えます。しかし、金融機関自身が5年後、10年後の経営をこれまで以上に厳しく問われる時代になれば、融資を受ける企業側も「自社の将来性」を数字で説明することがますます重要になります。
「銀行が貸してくれるか」だけを見るのではなく、「その銀行自身が今後どのような融資戦略を取るのか」という視点を持ちながら、銀行取引を進める必要があります。
弊社としても、クライアント企業様を通して、様々なエリアの銀行、信金、信組とお付き合いがありますので、今後は、より一層、こうした視点で金融機関の動向をウォッチし、お客様に情報提供していこうと思っています。
弊所は、銀行取引アドバイス、財務改善支援を得意としていますので、お困りの際は、お気軽にご相談下さい。